デジタル手仕事 02|売るための5000文字を手放して、息を吸い直す

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皆さん、こんにちは(こんばんは)、「大」(@oooohanamaru)」です。

目次

押し入れの奥に眠る、かつての相棒たち

休日の昼下がり、淹れたてのコーヒーをデスクの端に置き、椅子に深く腰掛ける。部屋の空気はどこまでも穏やかで、外の気配も遠く静かに感じられる。

ふと視線を落とすと、私の作業机の上には中央のメインモニターを中心に左右のサブ画面、M4 Mac miniやオーディオインターフェース、AKAI MPK mini Ⅳ、そして革しごと用の接着剤など、客観的に見れば結構なものが並んでいる。けれど、中央に敷いたA2のカッティングマットの上だけは、作業用のスペースとして常に何一つ物を置かない状態を維持できている。

かつてのように、机の上が何本ものコードやガジェットの化粧箱、そして何枚ものキーボードで埋め尽くされていた頃に比べれば、私なりにはずいぶんと落ち着いた、呼吸のしやすい風景になった。

そんなデスク周りを眺めながら、リビングでお茶を飲んでいた嫁ちゃんが、ふふっと笑いながら声をかけてきた。

嫁ちゃん

机の上、すっきりして広々したなぁ。前は荷物が届くたびに必死な顔して箱開けて、写真パシャパシャ撮っては机の上に並べてはったもんなぁ。

わたし

ほんまやなぁ。あの頃は、何かに追い立てられるようにキーボード叩いてたわ。

嫁ちゃん

でもな、この間ちょっと押し入れと引き出し開けてみたら、黒い四角い板ばっかりズラッと並んでてびっくりしたわ。アトリエの机の上にも、カメラとレンズがぎょうさん並んだまんまやし。机の上が片付いただけで、物自体は全然減ってへんやん(笑)。

わたし

……痛いところを突くなぁ。いや、あれはあれで、それぞれのキータッチとかレンズの描写にロマンがあんねん。どれも手放されへん、大切な相棒たちなんよ。

嫁ちゃん

まあ、男の人のロマンは知らんけどさ。手はふたつしかないんやし、パソコン1台にキーボードは1個でええんと違う?

嫁ちゃんの言葉は、いつだって驚くほど真っ当で、ぐうの音も出ない。

世間ではよく「モノを手放してミニマリストになりました」とか「エコロジーで持たない丁寧な暮らし」といった言葉を見聞きする。けれど、私自身は決してそんな達観した境地にたどり着いたわけではない。今でも最新ガジェットの発表を見ればワクワクするし、引き出しを開ければ、HHKB(Happy Hacking Keyboard)や東プレのRealforce、ロジクールのフラッグシップモデルなど、かつて惚れ込んで手に入れた名機たちがぎっしりと眠っている。アトリエの机の上にも、愛着のあるカメラやレンズが今なお居場所を保っている。

ガジェットへの好奇心も、物欲も、綺麗さっぱり消え去ったわけではないのだ。

最後に残った、たった1行の実利

そんな「キーボード沼」をひと通り泳ぎ切った(……つもりでいるが、実際のところMagic KeyboardだけでもTouch IDの有無やテンキー付きフルサイズなど計4台も持っているのだから、我ながら業が深い)私が、いま毎日飽きもせず指先を乗せているのは、至高の打鍵感を誇るメカニカルキーボードでも、極上のスコスコ感を奏でる静電容量無接点方式の高級機でもない。

Apple純正の、薄っぺらくて飾り気のない「Magic Keyboard(Touch ID搭載)」だ。

このキーボードを常用している理由は、語るのが気恥ずかしいほど素っ気ない。 「キーボードの右上に指をポンと置くだけで、一瞬でMacのロックが解除できるから」。

パスワードを打ち込むわずらわしさも、画面の前で一拍待たされるストレスもない。席に着いた瞬間にスッと作業の世界へ没入できるその圧倒的な手軽さと実用性が、日々の制作や執筆において、何よりもノイズにならなかったのだ。

こだわりのキーストロークや打鍵音をあれほど愛していたはずなのに、日々の暮らしの中で最後に選ばれたのは「Touch IDが便利すぎる」という、たった1行の冷徹なまでの実利だった。その現実に直面したとき、苦笑いとともに、自分の肩から余計な力がふっと抜けていくのを感じた。

極上のスコスコ感や心地よい打鍵音のロマンをひと通り味わった末に、結局いま一番手放せないのはこれでした。「指先をポンと置くだけで作業に戻れる」という、たったそれだけのこと。けれど、毎日の細かなパスワード入力のノイズをゼロにしてくれる実利は、思っていた以上に作業と暮らしを身軽にしてくれます。Mac miniやクラムシェル運用のお供に、静かにおすすめしたい相棒です。 ーー>ここにMagic Keyboardのアフィリを載せる

スペック表を睨み続けた、あの頃の5000文字

思い返せば、かつてブログでガジェットのレビューを熱心に書いていた頃の私は、常に「5000文字オーバー」という見えない壁と戦っていた。

新しい製品を手に入れると、まずはメーカーの公式サイトと仕様書を丹念に読み込み、細かなスペックを表に書き出す。本体の寸法、重量、通信規格、バッテリーの持続時間、キーの荷重やストローク、カメラレンズなら開放F値や最短撮影距離、周辺の解像感の傾向まで。

知識を深めること自体は楽しかったし、知的好奇心が満たされる喜びは確かにあった。けれど、いざ記事としてまとめようとエディタに向かうと、どこか胸の奥が締め付けられるような息苦しさを覚えるようになっていた。

「検索エンジンで見つけてもらうためには、網羅性が何より大事だ」 「他のサイトと比較されても見劣りしないよう、メリットもデメリットも漏れなく書き切らなければならない」 「たくさんの写真を挿入し、最低でも5000文字くらいはしっかり書かないと、読者の満足度も上がらないし評価もされない」

誰から頼まれたわけでもないのに、自分の中にそうした強迫観念のようなルールを作り上げてしまっていたのだと思う。

誤解のないように言っておきたいのだが、私は世の中にある綿密なガジェットレビュー記事を批判したいわけでは毛頭ない。むしろ、新製品が登場するたびに徹底的に検証し、美しい写真と明快な比較表で論理的に解説してくれるレビュアーの方々には、今でも深い敬意を抱いている。私自身、何か道具を選ぶ際にはそうした誠実な記事を何度も読み返し、助けられてきたからだ。

ただ、その「完璧で隙のないレビューのレース」を走り続けるには、私自身の息がどうしても続かなかった。

背伸びした言葉の重み

「このキーボードの打鍵感は極上です。作業効率を上げたいなら、今すぐ手に入れるべき逸品です」

そんな言葉を画面に打ち込みながら、ふと自分の心の奥で小さな違和感が立ち止まる。

(本当にそう思っているだろうか? 確かにいい道具だけれど、誰もが今すぐ買うべきものかと言われたら、少し言葉を盛りすぎてはいないだろうか……?)

読者の購買意欲を促すような強いフレーズを選び、記事のボリュームを保つためにスペックの解説を言葉で引き延ばす。そうして神経をすり減らして5000文字を書き上げ、公開ボタンを押したあとに残るのは、表現できた喜びではなく、頭のメモリを使い果たしたような重い疲労感だった。

道具を深く慈しむために始めたはずの場所で、いつの間にか道具を「記事のネタ」として消費し、言葉を「買わせるための手段」にしてしまっている。その小さなしんどさが、日々の生活の余白を少しずつ削り取っていた。

アナリティクスの数字と、消えない足跡

レビュー記事を無理して書くことを手放してから、ずいぶんと月日が流れた。 今の私のブログは、革しごとの制作風景や、チワワのそらちゃんとの他愛のない暮らし、Obsidianを使った試行錯誤のスクリプトなど、自分の手の届く範囲の出来事を、気の向くままに書き留める場所になっている。

それでも、ふと思い立ってアクセス解析(アナリティクス)の画面を開いてみると、そこには少し気恥ずかしく、けれどどこか感慨深い現実が静かに横たわっている。

いま私のブログで最も読まれている記事の多くは、皮肉にも、かつて必死な思いで書き上げた、あのガジェットレビューたちなのだ。

「……やっぱり、数字は嘘をつかへんなぁ」

ディスプレイをスクロールしながら、思わず独り言がこぼれる。 私が日々うんうん唸りながら書いている内省的なエッセイや、道具の些細な手入れの話に比べると、世間で関心の高いキーボードやカメラについて書いた記事のPV(ページビュー)は、今でも安定して数字を刻み続けている。

トレンドの需要や、世間の関心の大きさというものは、やはり確固たる事実としてそこにある。

一瞬、「あの頃の自分は、無理をして空回りしていただけだったのだろうか」という思いがかすめそうになる。けれど、呼吸を整えてそのグラフを見つめ直すと、不思議と温かな納得感が心に満ちてくる。

それは、「あのしんどかった5000文字も、決して無駄ではなかったのだ」という実感だ。

どこかの誰かが、夜更けにスマートフォンの画面を見つめながら、新しいキーボードを買うべきかどうか真剣に迷っていた。私自身、夜ベッドに入ってiPhoneをいじりながら、夢現のままAmazonでポチッとしてしまい、翌朝すっかり忘れているようなことがあるから、その深夜の物欲の熱量はよく分かる。

そんな迷いの途中で私のブログへたどり着き、私が実際に触って感じた細かな手触りや使い勝手の記録を読んで、「よし、これにしよう」あるいは「自分の用途には合わないな」と、ひとつの判断の材料にしてくれたのだ。

世間のトレンドを先頭で追いかけるような器用さはなかったけれど、当時の私がベストを尽くして残した記録は、確かに誰かの役に立っていた。

そう思えると、過去の自分の不器用な頑張りを、静かに肯定してあげられる気がする。あの消耗戦のような試行錯誤を経験したからこそ、私は自分の身の丈に合ったペースを知り、心地よい発信の距離感を見出すことができたのだから。

静かに届く月1,000円と、手触りのある共感

ガツガツとしたレビューの舞台から降りて、肩の力を抜いて書くようになってから、ブログから得られるアフィリエイトの収益は様変わりした。

かつてのようにまとまった額が毎月振り込まれることはなくなり、今では「月に1,000円いけばええ方」という、実につつまましい規模に落ち着いている。収益化やビジネスとしてブログを捉えている人から見れば、「そんな数字で続けていて意味があるのか」と苦笑いされるかもしれない。

けれど、私にとってのこの「月1,000円」は、かつて得ていたどんな数字よりも、ずっと深く、温かく胸に染み入る重みを持っている。

いまのブログには、「これを買えば劇的に人生が変わる」とか「今すぐ手に入れるべき理由」といった、読者の背中を無理に押すような言葉は一行もない。ただ、日々の暮らしや手仕事の中でつまずき、考え、工夫したプロセスをありのままに置いているだけだ。

  • iCloudの連絡先との同期を切った拍子に、Macのログインアイコンが見知らぬマークへ変わって焦ったけれど、ユーザー設定から写真を指定し直して無事に胸を撫で下ろした話
  • エアコンの設定温度よりも、床で過ごすそらちゃんの体感温度は2度低かったという実測の気づき
  • あらゆるキーボードを試した末に、結局はTouch ID付きの薄型が一番実用的だったという苦笑い

そんな、世間から見れば取るに足らないかもしれない、日常のささやかな手触り。

けれど、その飾らない言葉を読んで、「自分も同じところで悩んでいた」「その視点は参考になった」と共感してくれた読者が、記事の片隅にあるリンクから、そっと道具を手にとってくれる。

その結果として手元に残る月1,000円は、単なる「売上」ではない。 名前も顔も知らない誰かと、インターネットの片隅で静かに視線が交わり、小さく頷き合えたような、確かな「共感の証」なのだ。

煽らず、背伸びをせず、自分が本当に納得して使っている道具の輪郭だけを言葉にする。それで誰かの役に立ち、お互いに心地よい形でささやかな循環が生まれるなら、これほどありがたく、健全な仕組みはない。

アフィリエイトという仕組みの本来の心地よさは、きっとこうした穏やかな循環の中にあるのだと思う。

息を吸い直して、手元の暮らしを言葉にする

キーボードからそっと指を離し、深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。 部屋の中はとても静かで、足元ではチワワのそらちゃんが、丸くなってすやすやと寝息を立てている。

押し入れの奥に眠る歴代のキーボードたちも、アトリエの机に並ぶカメラやレンズたちも、今の私には無理に処分する必要のないものだ。「パソコン1台にキーボードは1個」という嫁ちゃんの言葉はまったくその通りだけれど、あの道具たちに夢中になり、熱を込めて文字を綴っていた時間そのものが、私の人生の確かな足跡だったのだから。

モノへの好奇心や物欲を、無理に捨てる必要はない。 ガジェットが好きな自分を、否定する必要もまったくない。

ただ、「売るための5000文字」という重たい鎧を脱ぎ捨てて、もっと自然な呼吸で、手元にある道具や暮らしと向き合えばいいのだ。

机の上にあるMagic Keyboardは、今日も指紋認証でスッと画面を開いてくれた。 派手なバックライトもなければ、心躍るキーストロークを奏でるわけでもないけれど、革を裁ち、針を通し、愛犬のぬくもりを感じながら思索を深める私の日常には、この薄くて飾らない相棒が、驚くほど静かに馴染んでいる。

多くの人に読まれなくてもいい。 誰かの購買意欲を無理に煽らなくてもいい。

自分がベストを尽くして暮らしている日々の手触りや、小さな気づき、試行錯誤のプロセスを、これからも自分の呼吸に合わせて、ぽつりぽつりと書き残していこうと思う。

その飾らない言葉が、いつかどこかの誰かの心を、ほんの少しでもふっと軽くすることができたなら、私にとってはそれだけで、十分に満ち足りたブログの形なのだから。

この記事がお役に立ちましたら幸いです。

では、また。

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